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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)129号 判決 1996年2月29日

原告 宮川淑 外一名

被告 千葉県選挙管理委員会

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  平成七年四月九日執行の千葉県議会議員選挙のうち、市川市選挙区における選挙を無効とする。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の申立て)

本件訴えを却下する。

(本案について)

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

原告らは、平成七年四月九日に執行された千葉県議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)の市川市選挙区の選挙人であり、被告は、本件選挙を管理した選挙管理委員会である。

2  (異議申出と決定)

原告らは、平成七年四月一八日、被告に対し、本件選挙のうち市川市選挙区における選挙を無効とする旨の決定を求め、公職選挙法(以下「公選法」という。)二〇二条一項に基づき異議申出をしたが、被告は、同年五月八日、原告らの異議申出を却下する旨の決定をした。

3  (本件選挙の違法事由)

(一) 千葉県議会は、平成六年一二月一三日、千葉県議会議員の選挙区等に関する条例及び千葉県議会議員の定数を減少する条例の一部を改正する条例を可決した(以下「本件改正」という。)。右改正は、従来の松戸市選挙区を松戸市南選挙区と松戸市北選挙区に分割し、議員定数を前者を四、後者を三に配分する規定を含むものであるところ、本件選挙は、千葉県議会議員の各選挙区への定数配分を定める、右改正後の千葉県議会議員の選挙区等に関する条例(昭和四九年千葉県条例第五五号)及び千葉県議会議員の定数を減少する条例(昭和五三年千葉県条例第五三号)に基づいて行われたものである。

(二) しかし、本件改正による右定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)は、公選法一五条二項、三項、五項及び八項等の立法趣旨に反している。議員定数の配分は全体として一体不可分であるから、市川市選挙区における選挙も違法であり、無効である。

(三) 本件改正は、平成六年三月三一日現在の住民基本台帳人口をもとにされたが、右改正前の松戸市選挙区の人口は四五万四八三二人、議員定数六であったから、当該都道府県の人口を当該都道府県の議会の議員の定数をもって除して得た数(以下「議員一人当たりの人口」という。)は七万五八〇五人であった。同県下選挙区の議員一人当たりの人口が二万二五三三人で最少の匝瑳郡選挙区との比較において三・三六四倍の較差であった(別紙第一表)。

千葉県下選挙区の議員一人当たりの人口較差の順位(対匝瑳郡)でいうと、松戸市選挙区の三・三六四倍の較差は較差の大きい順で九番目であり、較差(対匝瑳郡)三・五倍以上の選挙区の定数を各一増とした場合には定数増の対象にならないはずである。

(四) しかるに、自由民主党は、議員定数等検討委員会(平成六年六月一七日設置)の第一回(同年七月一二日)から第三回(同年九月二一日)の間、同党案を提出せず、最終回の第四回(同年一二月二日)に、突如、松戸市選挙区を右のとおり南北に分割する案を含む「五増・松戸市分割」案を提出し、審議を尽くしたといえない状態のまま、同月一三日の本会議で同党のみの賛成多数で同案を可決した。同案の根拠は、衆議院において小選挙区比例代表並立制を導入することを決めた公選法の改正(平成六年二月四日公布)に伴い、同法一五条五項が新設され、形式だけからは小選挙区の区分のために二つに分割された松戸市のそれぞれを県議会の選挙区にもすることができることになったためである。

(五) 衆議院の小選挙区においては、千葉県六区は松戸市の一部、市川市の一部及び鎌ケ谷市から成り、七区は松戸市の一部、野田市、流山市及び東葛飾郡(関宿町)から成ることになったが、こうした分割をした目的は、衆議院議員選挙区画定審議会設置法三条が選挙区間の人口較差の最大値を二倍未満にすることを基本とする旨定めたからであった。その結果、六区の人口較差は一・六四三、七区の人口較差は一・七六三(いずれも対島根三区)に収まることになった(人口は平成二年一〇月一日国勢調査)。こうして、衆議院の小選挙区において松戸市を分割し他市と併せて選挙区を設けた立法趣旨は、選挙区間の人口較差を可能な限り縮小することであった。

(六) ところが、衆議院小選挙区の千葉県六区と七区から他市を切り離して松戸市のみの部分で県議会の松戸市南選挙区と同北選挙区を設けると、前者の人口二八万八四四八人、議員定数四、較差三・二〇〇(対匝瑳郡)、後者の人口一六万六三八四人、議員定数二、較差三・六九二(対匝瑳郡)となる(人口は平成六年三月三一日住民基本台帳)。この結果、松戸市北選挙区の議員一人当たりの人口較差三・六九二(対匝瑳郡)は、較差の大きい順からすると、松戸市全体を一選挙区とした場合の較差三・三六四(第九位)をはるかに抜いて第三位となり、自由民主党が意図した三・五倍以上の選挙区の定数一増の対象となる(別紙第二表)。こうして、前記改正により、松戸市北選挙区の定数が二であるところ三に一増となったのである。

(七) 選挙区の分割が、議員一人当たりの人口較差の縮小ではなく、逆にそれの拡大を招くというのは、公選法一五条二項、三項、五項及び八項等の立法趣旨に反する措置であり、松戸市選挙区を二分して松戸市南選挙区と同北選挙区を設け、二であるべき後者の定数を一増させ三にしたのは、衆議院小選挙区制に便乗した党利党略であって、議会の立法裁量の限度を超えている。

(八) よって、原告らは、本件選挙のうち、市川市選挙区における選挙を無効とする判決を求める。

二  本案前の申立てについての被告の主張

1  本件定数配分規定は、地方自治法九〇条三項及び公選法一五条二ないし五項、八項、二七一条の規定により制定されたものであり、本件選挙は右定数配分規定及び公選法に基づいて適法に執行されたものである。

2  ところで、公選法二〇三条一項の訴訟に関する規定は、同法に基づき執行された選挙に管理執行上の瑕疵があった場合にこれを無効とし、早期に適正な再選挙を実施して選挙の自由と公正とを確保するために設けられたものである。このことは、行政事件訴訟法五条及び四二条が、公選法に規定する訴訟は民衆訴訟の一種として、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起されたもので、しかも法律に定める事項に限り許されるものと明定し、また、公選法二一九条の規定が行政事件訴訟法三一条の事情判決の規定をことさら排除していることからも明らかである。

3  したがって、条例自体である本件定数配分規定の瑕疵を理由とする本件訴えは、公選法二〇三条一項の規定によって提起し得るものではなく、不適法であって却下を免れない。

三  本案についての被告の答弁

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1、2の事実は認める。

(二) 同3の(一)の事実は認め、同(二)は争う。

(三) 同3の(三)のうち、本件改正が平成六年三月三一日現在の住民基本台帳に基づいてされたこと、松戸市選挙区の人口、議員定数、同選挙区の議員一人当たりの人口及び最少の匝瑳郡選挙区との比較における較差がそれぞれ原告ら主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

(四) 同3の(四)のうち、原告ら主張の可決された議案が自由民主党案であったことは認めるが、その余は争う。

(五) 同3の(五)のうち、衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区が、千葉県六区は松戸市の一部、市川市の一部及び鎌ケ谷市から成り、同七区は松戸市の一部、野田市、流山市及び東葛飾郡(関宿町)から成ることは認めるが、その余は争う。

(六) 同3の(六)のうち、松戸市選挙区分割の結果、松戸市北選挙区の議員定数二による人口較差が原告ら主張のとおり三・六九二となり、較差の大きい順からすると第三位となったことは認める。

(七) 同3の(七)は争う。

2  本案についての被告の主張

(一) 都道府県議会議員の定数配分に関する法律の規定

(1) 県議会議員の総定数

地方自治法九〇条は、直近の国勢調査人口に基づき議員定数の上限の算出方法を定め、また、その上限に対し条例で特に減少することができる旨定めている。千葉県議会は、本件改正で議員の総定数を九七人と定めた。

(2) 選挙区の決定方法

都道府県の議会の議員の選挙区は、公選法一五条一項で郡市の区域によるとの原則を採用している。しかし、当該選挙区の人口が議員一人当たりの人口の半数に達しないときは、条例で隣接する他の郡市と合わせて一選挙区を設けなければならないとされ(同条二項。強制合区)、さらに、当該選挙区の人口が議員一人当たりの人口の半数以上であっても議員一人当たりの人口に達しないときは、独立の選挙区とするか、あるいは条例で隣接する他の郡市と合わせて一選挙区を設けることができ、この選択は当該都道府県の議会の裁量に委ねられている(同条三項。任意合区)。

一方、公選法一五条五項は一の郡市の区域が二以上の衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区に属する区域に分かれている場合は、当該各区域を郡市の区域とみなし、独立の選挙区(以下「地域選挙区」という。)とすることができる旨規定し、衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区と都道府県議会議員の選挙区との調整を図ることを当該議会の裁量に委ねている。

このように行政区画等によって選挙区割りをした場合、その定数配分をするについて郡市の人口に過不足が生じないことはむしろ稀であるので、公選法は、同法一五条一項、五項に規定する郡市の区域であっても、議員一人当たりの人口の少ない区域については、同条二項、三項の規定によって合区することにより人口較差の拡大を防止することができる旨定めている。

結局、公選法一五条五項の規定は同条二項、三項と異なり、議員一人当たりの人口にかかわりなく適用することができ、人口較差の拡大防止を意図するものではなく、都道府県議会議員と衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区との調整を図ることについて、同議会に裁量権を認めた規定ということができる。

(3) 議員定数の配分方法

公選法は、議員定数の配分について、各選挙区間の投票価値に不平等が生じないように均衡を図るため、同法一五条八項本文で「人口に比例して、条例で定める」との原則規定を設け、この場合においても、同項ただし書で「ただし、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができる。」として人口以外の諸要素を総合的に勘案して定めることができることにし、都道府県議会に一定の裁量権を認めている。したがって、前記のとおり、同議会が地域選挙区を設けるか、合区を設けるか、議員の法定数を減少するか、あるいは議員定数の配分に当たり人口比例の原則を修正するかどうかなどについては、すべて当該議会の裁量に委ねており、それが一般的に合理性を有するものと考えられない程度に達していない限り違法とされることはないのである。

このように、都道府県議会議員の選挙制度は、その居住する住民の歴史的、地域的まとまりなどを重視して選挙区を設置したのちに投票価値の平等を図るよう定数配分を行うものであり、あらかじめ定数一を前提として議員一人当たり人口の均衡を図るよう選挙区を設置する衆議院(小選挙区選出)議員の選挙制度と趣旨を異にする。

(二) 本件改正による定数配分規定について

(1) 本件改正で、千葉県議会は県議会議員選挙区のうち松戸市選挙区を松戸市南選挙区と同北選挙区の二つに分割したが、この二選挙区の設置は、前記のとおり、公選法一五条二項、三項の規定の対象となるものではなく、同条五項によって認められたもので、議会の裁量権の合理的な範囲内にある。

(2) また、松戸市北選挙区の議員定数を三としたが、配当基数(各選挙区の人口を議員一人当たり人口で除して得た数)が二・八七七であることから、配当基数どおりの配分であり問題はない。

本件改正の結果、<1>特例選挙区を含めた場合の人口比定数(公職選挙法施行令一四四条の規定による平成二年国勢調査に基づく人口により公選法一五条八項本文の規定による人口比例原則に基づいて配分した定数)による最大較差三・九五(成田市選挙区対匝瑳郡選挙区)に対し、公選法一五条八項ただし書を適用した結果、最大較差は三・四八(柏市選挙区対匝瑳郡選挙区)、<2>特例選挙区を除いた場合の人口比定数による最大較差二・六八(成田市選挙区対八日市場市選挙区)に対し、公選法一五条八項ただし書を適用した結果、最大較差は二・四五(柏市選挙区対長生郡選挙区)となったものであり、右改正の結果は、最高裁平成四年(行ツ)第九四号平成五年一〇月二二日第二小法廷判決にも適合する。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1(当事者)及び2(異議申出と決定)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  被告の本案前の申立てについて

被告は、本件訴えは、条例それ自体の瑕疵を理由とするもので、公選法二〇三条一項の規定の趣旨に適合しないものであるから、却下を免れないと主張する。

しかしながら、地方公共団体の議会の議員の定数配分を定めた条例の規定そのものの違憲、違法を理由とする地方公共団体の議会の議員の選挙の効力に関する訴訟が、公選法二〇三条の規定による訴訟として許されることは最高裁判所大法廷判決(昭和四九年(行ツ)第七五号同五一年四月一四日判決・民集三〇巻三号二二三頁、平成三年(行ツ)第一一一号同五年一月二〇日判決・民集四七巻一号六七頁)の趣旨に照らして明らかである(最高裁昭和五八年(行ツ)第一一五号同五九年五月一七日第一小法廷判決・民集三八巻七号七二一頁、同平成二年(行ツ)第六四号同三年四月二三日第三小法廷判決・民集四五巻四号五五四頁、同平成四年(行ツ)第一七二号同五年一〇月二二日第二小法廷判決・民集四七巻八号五一四七頁参照)。したがって、被告の右主張は採用することができない。

三  本件定数配分規定の適否について

1  地方自治法九〇条一項、二項は、都道府県議会の議員の定数につき、その上限の算出方法を定め、同条三項は条例で右上限を特に減少することができる旨を定めている。証拠(乙二、三、五)によれば、千葉県議会は、本件改正により県議会議員の総定数を法定の議員定数の限度内である九七人と定めたことが認められる。

2  都道府県の議会の議員の選挙区は、公選法一五条一項で郡市の区域によるとの原則を採用している。しかし、当該区域の人口が議員一人当たりの人口の半数に達しないときは、条例で隣接する他の郡市と合わせて一選挙区を設けなければならないとされ(同条二項。強制合区)、また、当該区域の人口が議員一人当たりの人口の半数以上であっても議員一人当たりの人口に達しないときは、条例で隣接する他の郡市と合わせて一選挙区を設けることもできることとしている(同条三項。任意合区)。

一方、公選法一五条五項は一の郡市の区域が二以上の衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区に属する区域に分かれている場合は、衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区と都道府県議会議員の選挙区との調整を図るため、同条一項から三項までの規定の適用(同条四項の規定の適用がある場合を含む。)については、当該各区域を郡市の区域とみなし、独立の選挙区とすることができる旨を定めている。すなわち、公選法は、同法一五条一項又は五項によって、選挙区の原則的な区割りの方法を定めると共に、同条項に規定する区域であっても議員一人当たりの人口の少ない区域については、同条二項、三項の規定によって合区することにより、各選挙区の人口較差の拡大を防止することができる旨定めているのである。結局、公選法一五条五項の規定それ自体は、同条二項、三項の規定と異なり、人口較差の拡大防止を直接意図するものというよりは、むしろ都道府県議会議員と衆議院(小選挙区選出)議員の選挙区との調整を図ることによって、それぞれの選挙区が異なった場合に生ずる混乱を防止し、地域住民の選挙における公平と便宜等を図ったものと解することができ、そのような地域選挙区を設けるか否かの選択は議会の裁量に委ねられるものと解される。同条五項の適用につき、議員一人当たりの人口の較差の縮小でなく、その拡大を招くときは、同条項を適用することができないと解する余地はない。

公選法は、議員定数の配分について、さらに各選挙区間の投票価値の均衡を図るため、同法一五条八項本文で、原則として人口に比例して条例で定めることとし、ただし、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準として地域間の均衡を考慮して定めることができると規定し、この点についても都道府県議会に一定の裁量権を認めている。したがって、議員の定数配分規定が、右各規定に照らして一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していない限り違法とされることはないと解するのが相当である。

3  そこで、本件改正による定数配分規定の適否について検討するに、証拠(乙一ないし三、五、六、七の1ないし7、八、九)によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、千葉県議会では、平成六年七月一二日、議長、副議長及び各党代表一三名で構成する第一回千葉県議会議員定数等検討委員会(以下「委員会」という。)が開催され、正副委員長の互選を行うと共に委員会の運営に関する申し合わせ事項を決定し、次いで第二回期日(同年八月一七日)には、千葉県選挙管理委員会事務局長から平成三年四月に執行された議員選挙に係る最高裁判所の判決内容について説明を受け、各会派の検討内容について発表があった。第三回期日(同年九月二一日)には、議員定数等につき、議会関係者のみならず、住民代表、学識経験者等の参加の下に検討をする第三者機関を設置することについて協議したが、結論が出ず、次回の委員会で再度検討することになり、第四回期日(同年一二月二日)で第三者機関の設置について採決した結果、可否同数となり、委員長の判断により否決された。また、同日、自由民主党の県議会議員定数是正案(乙七の1)が提案されたが、その内容は、<1>平成六年三月現在の住民基本台帳の人口を基準として、匝瑳郡を一とした場合の較差を三・五倍以内にすることとし、印旛郡、千葉市中央区、千葉市花見川区及び佐倉市の四つの選挙区の定数について各一増とする、<2>松戸市選挙区については、衆議院議員選挙が小選挙区制となったことに伴い、同市が分割されたため、県議会議員選挙についても、松戸市における衆議院議員選挙区第六区と同第七区に分割し、かつ、前記<1>の較差の基準を適用して六区地区・松戸市南選挙区(仮称)の定数を四とすると共に、七区地区を松戸市北選挙区(仮称)として定数三とする、この結果、従来の松戸市選挙区の定数六が松戸市域全体で七となるので、県議会議員の現行定数九二を五増して九七とする、いわゆる「五増、松戸市分割」案というものであった。そこで、同日、この是正案についても協議したが、次回の委員会で各会派の是正案を含めて再度検討することになった。第五回期日(同年一二月七日)には、各会派の是正案についてそれぞれ説明があり、討議したが意見の一致を見るに至らず、委員会の報告書には意見の一致が見られなかった旨を記載し、各会派の意見を報告することで各会派が了承した。

そこで、新生党・改革連合、民社党、公明党の三会派の共同提案に係る案、すなわち、印旛郡、千葉市中央区及び千葉市花見川区の三選挙区の定数を各一増とし、県議会議員の現行定数九二を三増して九五とする「三増」案と自由民主党がまとめた「五増・松戸市分割」案が議員発議で同年一二月一三日の県議会に提出され、右各案について討論され、採決した結果、自由民主党案が可決成立し、本件改正となった。以上の事実がそれぞれ認められる。

これらの事実によれば、本件改正に当たり、千葉県議会が松戸市選挙区を松戸市南選挙区と同北選挙区に分割し、匝瑳郡を一とした場合の同北選挙区の較差が三・五倍を超えることから議員定数を一増して三としたことは、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として是認し得るものであり、右改正による本件定数配分規定は適法と認めるのが相当である。

なお、証拠(乙一、三)により、松戸市北選挙区の議員定数を三としたのは、配当基数(各選挙区の人口を議員一人当たり人口で除して得た数)が二・八七七であることから配当基数どおりの配分であり、また、本件改正の結果、<1>特例選挙区を含めた場合の人口比定数(公職選挙法施行令一四四条の規定による平成二年国勢調査に基づく人口により公選法一五条八項本文の規定による人口比例原則に基づいて配分した定数)による最大較差三・九五(成田市選挙区対匝瑳郡選挙区)に対し、公選法一五条八項ただし書を適用した結果、最大較差は三・四八(柏市選挙区対匝瑳郡選挙区)となり、<2>特例選挙区を除いた場合の人口比定数による最大較差二・六八(成田市選挙区対八日市場市選挙区)に対し、公選法一五条八項ただし書を適用した結果、最大較差は二・四五(柏市選挙区対長生郡選挙区)となったものであることが認められ(別紙第三表)、右改正の結果は、最高裁平成四年(行ツ)第九四号平成五年一〇月二二日第二小法廷判決(裁判所時報一一〇九号九頁)にも適合するといえる。

以上のことは、本件改正に係る自由民主党案が、前記定数等検討委員会の第四回期日に初めて提案され、前記県議会において可決されたとしても、これをもって直ちに県議会の立法裁量の限度を超えた違法なものということはできず、前記判断を左右するに足りない。

四  結論

以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊昭 河野信夫 小野剛)

別紙 第一表、第二表、第三表<省略>

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